≫ いつか いつか、僕が君に辿り着いたなら (09.06.02)
忘れないで 見失わないで
君と、君の未来の為に僕達が戦っていると言う事
◆My love story◆
『スゲーもん、撃たれちまったな』
『・・・ああ』
ジェネシスが撃たれた後、主力を焼かれた地球連合軍とともにプラントから離れたデブリの多い宙域に、
アークエンジェル、クサナギ、エターナルの三隻は留まっていた。
ザフト、連合とどちらが動いても直ぐに対応出来るように、整備または補給と各艦は騒然としていて、
それを見ていたディアッカはクルー達とは反対に覇気の無い声を出し、アスランも同じように元気の無い声で答えた。
線源には核爆発を用い、発生したエネルギーを直接コヒーレント化したもの。
つまり、あれはガンマ線レーザー砲と言うわけです。
地球に向けられればエネルギー輻射は地表全土を焼き払い、あらゆる生物を一掃するでしょう。
先程、ブリッジでエリカ・シモンズと言うオーブ所属の優秀なコーディネーターの女性がそう発言し、
誰もが顔を青褪めさせたのをアスランは思い出す。
強力な遠距離大量破壊兵器保持の本来の目的と言うのは大抵抑止だが、もう撃たれた事で全ては変わってしまった。
核を撃つ地球連合軍、ザフト、どちらももう、きっと躊躇わない。
顔を青褪めさせた皆が考えた事は同じなのだろう。次のジェネシスの照準は、「もしかして」と思ってしまう。
―でも、本当にジェネシスの第二射を、撃つ?・・・自分の父親がまるで分からない。何を考えているのか・・・。
このままでは母なる地球までもを、撃ってしまいそうで―
『ミントちゃん、どう思ったかな・・・』
答えの出ない問題に頭を抱えるアスランに、ディアッカは窓の外に煌く星達を見ながら何処か呆けながら問う。
一度は地球連合軍の核を止められて、プラントを守れて安堵に浸った。
ラクスの呼びかけに、ザフトの面々が耳を傾けたのが見え一瞬の希望を見出した。
でも、それで戦いは終わらなかった。ジェネシスは撃たれ、閃光が駆け抜けた痕に地球軍の大半が消滅したのが見えた。
遠く離れているミントは、今頃何を想っているのだろうか。
彼女は敵も味方も無く、人が殺される事を嫌って居ると言うのに。
ディアッカはグッと拳を作り、力の限り握って薄い紫色の目を閉じミントを想った。
『・・・多分、ひときわ輝いていた真紅の機体、あれがミントだったと思う。
撃ち落していた機体は全て、致命的になるだろう場所を避けていたから』
メインカメラや腕、足を切り落とし武器系統を撃ち落す戦い方をするザフト兵士を自分達は見た事なんて無い。
それにエリートと言われていた赤服のメンバーでさえ、そんな器用な戦い方は出来なかった。
『人を殺さない戦い方が出来るパイロットなんて、そうは居ない』
『・・・そうだな』
唯一キラが、そんな理想の戦い方をしているくらいで自分達には不甲斐なくも出来ない。
ミントが圧倒的な強さを抱えていた事を、アスランとディアッカは今更ながら実感し嘆息した。
『ミントがパイロットだって?』
不意に聞こえた声に二人が振り返るとカップ片手にニヤリと笑う顔に大胆な傷を負った男が、ゆっくりとアスラン達の後ろから歩いて来ていた。
いつからか独特に漂うコーヒーの香りに辺り一帯が覆われていて、彼らしい登場だなと頭の隅を掠める。
『・・・バルトフェルド隊長』
『止めてくれ、僕はもう「ザフトの隊長」なんかじゃないんだよ。そして、君達もザフトではない』
一口コクリと喉にコーヒーを流し込み「今日のブレンドも最高だ」と笑うバルトフェルドは、
カップを持つ片手を高く上げる。
片手を失っても笑っている顔は清清しく、二人に言い聞かせる声は穏やかだった。
背筋を正した二人だったが、バルトフェルドの発言に息を呑んで頷いた。
そうだ、自分達はもうザフトの軍人ではない。
今はミントと違う場所に立ち、けれど同じ思いを抱く第三の立場だ。
自分も、このバルトフェルド「隊長」・・・だった人も。
『・・・ミントは』
近くにあったデスクにカップを静かに置いて、バルトフェルドは目を伏せた。
彼なりに思い出しているのだろう。記憶に残る、いつか砂漠で会ったミントの事を。
『戦場に立つ事の向かない、生温い思慮の女の子だ。
・・・ほんの少し前までは、ね。彼女は人の心配ばかりする子、そうだろ?
まぁ、でも、今の彼女は昔のように力を発揮しているんだろうな』
『・・・昔?』
分かったかのような口を聞くバルトフェルドに対して首を傾げるアスランとディアッカに、
バルトフェルドはミントの出生の意味、生い立ち、血のバレンタインまでの経歴を話した。
ナチュラルを殺す為に作られ、ナチュラルと戦い合う為に育てられ、ナチュラルとの戦いに出れば「鬼神」と恐れられた一時の過去。
アスランとディアッカは全てを聞き終えた後、どちらともなく目を合わせ、そして眉を寄せて視線を落とし、
辛く、迷っていたのだろうとミントを想った。
二人の顔にバルトフェルドは苦く笑い、頭をかいて少しだけ暗い息を吐く。
こんな時代だ。仕方ないと言いつつも受け入れられない部分だってあるだろう。
彼女が労しいと思う二人は間違っていない。
『・・・ただ、生温さは変わっていないようだが』
けれど、戦いに身を置く事を選んだ彼女だが変わらない思いを持っているのだろうと分かる。
殺さない戦いを続けているのを見れば遠くに居たとしても気づく。
戦場でその甘さは仇になる、しかし変わらずに在る彼女らしい優しい一面がバルトフェルドにとっても嬉しい事だった。
それに同じ願いを持っているのなら、ザフトに居る身分であっても心強い。自分は彼女の実力を以前からよく知っているから。
<地球軍艦隊、進撃を開始します!>
突然、緊迫した声の艦内アナウンスが流れ、アスランとディアッカはハッと顔を上げた。
一度引き返した地球軍の態勢が整ったのだろう。
『さて、僕も持ち場に戻るとしよう。じゃあ、少年達よ。健闘を祈る』
バルトフェルドも背伸びをして深く息を吐き、絶やさない笑顔で身を翻した。
途中、段差を一段降りたところで少しだけ振り向いて二人を見る。
実際、視界に映る程度でバルトフェルドに二人の顔は見えてなかったかもしれない。
ただ小さく、そしてちょっとだけ恥ずかしそうな声を出す。
『・・・ミントを、宜しくな』
その言葉に、アスランとディアッカは一瞬で背筋を正した。もうザフトの軍人ではないし、今のバルトフェルドは仲間で上官では無い。
でもMSで出撃出来ない彼の想いが篭った言葉に答えるには一番の姿勢だと思う。
『・・・はいっ!!』
二人はしっかりとした返事を返すと、格納庫に向かってどちらともなく駆け出した。
ディアッカと別れ、エレベーターを降りて通路を進むアスランの隣へと追いついたカガリが、
ちらりとアスランを見やる視線に気づき、アスランは眉を顰めてカガリへ声をかけた。
『何だ?』
アスランとカガリの歩幅コンパスの差か、ちょこちょこと隣を早歩きで並ぶカガリだが表情はニヤニヤとし、
出撃に向かうアスランの難しい顔とは対照的な嬉しそうな顔つきをしている。
いつも勢いのある彼女らしいと言えばそうなのだが、でも今回はただのオテンバとは違う気がする。
訝しげにするアスランの思考を察したのかカガリは更にニヤリとした。
『今度は私も出られる。ストライクルージュでさ』
そう言うとカガリは絶やさない笑顔をアスランに向けた。
一瞬聞き流しそうになったアスランだが、カガリの言葉をもう一度頭の中で確認し、慌てて急ぐ足を止めた。
『ちょ、ちょっと待て、カガリ』
『何だ?』
『「何だ」って、出るって?この戦闘にか?』
ストライクルージュが彼女の機体だとは知っていた。
モルゲンレーテ社が、イージスとの戦闘で中破したストライクを修復した際に製作された予備パーツを組み上げて完成させた機体だ。
操縦に不慣れなカガリをサポートする為、制御系にはオーブが独自開発した操縦支援AIシステムを搭載し更なる追従反射性能を得ており、
新開発の大容量バッテリーパック「パワーエクステンダー」を搭載したことで、活動時間が大幅に延長されている。
また、エネルギー変換効率の向上に伴ってPS装甲への供給電力も増加し、防御力の向上を果たしている。
しかし幾ら性能の良い機体であるとしても、まさかこの緊迫した場面で彼女が出撃すると思っていなかった。
『何だよ!私にはちゃんと適正があるだろ?昔から軍事教練を受けてきたし、M1の連中より腕は上だ』
『いや・・・けど!』
カガリが口にしたように、オーブに居た時から彼女は一通りの軍事教育は受けていた。
だからそれなりに適正も、実力もあるのだが戦闘とシミュレーションは一味違うと言う意味でアスランは気遣う。
けれどその狼狽もただ自分による危険思想だと思われていると理解したのかカガリはアスランの顔をしっかりと見て声を張った。
『出来る事、望む事、すべき事・・・皆、同じだろ!?アスランも、キラも、私も・・・ミントもさ!』
『ミント?』
急に出て来た名前に、アスランはまたまた吃驚させられた。
ミントの事は一日だって忘れた事は無いけれど、ほとんど係わりの無いカガリがミントの名前をあげたからだ。
『お前はザフトからこっちに来て、たまに心配そうな顔で宇宙の何処かを見ていた。
最初は分からなかったが、思えばあの時、ミントが死ぬかもしれないと言っていた時の顔と一緒だった』
アスランは、そう言われて言いかけた言葉を止めた。
良く気がつき誰だろうと人を分け隔てなく気遣うカガリは、
アスランが時々ぼぅっと宇宙の何処か遠くを見ているのを知っていたのだろう。
そして、それがどうしてか、いずれ気づいた。
キラを道連れに自爆し、オーブが彼を救助した時、泣いてミントを想っていた顔と同じだったから。
愛しみ慈しみ、切なそうな辛そうな、顔。
『アスラン、お前はミントの為にも戦うんだろ?
世界の皆が幸せになるように、ミントが、笑えるように』
背筋を張ったカガリはきりりとした目つきでアスランへ向かう。
真摯な彼の真摯な思いを、仲間としてしっかりと後押ししてあげたい。
そして頼りなく笑ったミントの、あの笑顔をもう一度見たくて。
『それって、凄い事だ。だから私も同じように戦いたい。・・・父の思いを、繋ぐ為にも』
『カガリ・・・』
今、辛いのは誰だって同じだ。
戦いたくて、殺したくて、そんな事で戦争が起きてるんじゃない。
思いを貫きたくて、願いを叶えたくて、それだけなんだ。
だから自分も出撃して、少しでも争いの無い世界へと近づく手伝いが出来れば。
『じゃ、くれぐれも死ぬなよ』
『・・・君も、気をつけて』
『そんな顔するなよ、私より、お前の方が全然危なっかしいぞ』
此処最近では癖のように眉を下げるアスランを元気付けるように笑ったカガリは、「じゃあ行くぞ」と無造作に手を挙げ発着デッキへ向けて地面を蹴る。
これで戦争が終わると良い。これで皆が笑えると良い。
『あ』
ピン、と気がついたカガリは、勢い良く駆けていた足で上半身だけを振り向かせる。
パタパタと足音を鳴らしながら「おーい」と呼ぶ声に、アスランは首を傾げた。
『戦争が終わったらちゃんとミントに気持ち伝えろよー!
お前ぼさっとしてるから、誰かに取られちゃうぞー!!』
『なっ・・!!』
「じゃあな」、とあっけらかんとした声で去るカガリの言葉に、アスランは肩をびくりと震わせた。
頭の中にはあのイザークの顔が一瞬浮かび、自分が居ない間に関係を深めていたらどうしようさえ思わせる。
『・・・余計な事言うなよ』
カガリはリラックスさせてくれたのだろうけれど、突拍子の無い発言はある意味心配にもさせられた。
離れている自分はただでさえ距離が開いていると言うのに、何て事を言うんだ。
アスランは元気良く走り去るカガリの後姿に口を尖らせては呟いた。
『ミント・・・』
想う相手の名を呼び、アスランも廊下を駆ける。
こうやって名前を呼んで、あの声で返事が貰える日が待ち遠しい。
ミントが居る場所へ出撃すると思ったら、アスランが廊下を蹴る足は無意識に力が入った。
いつか君をこの腕に抱きしめて、胸に秘めていた想いを言葉で伝えて。
必ず生き残って、君を。