≫ 存在する全てにおいて刻まれる時間(とき)は等しく (09.02.10)


討つ決意は自分が固めなければならなかったんだ。
彼女が立ち上がって声をあげなければならないなんて、何処まで自分は不甲斐ないのだ。



「艦隊より離脱艦あり!・・・艦特定!"足つき"です!」

イージスでスタンバイしていたアスランは一度目を閉じ、ゆっくりと呼吸をする。
奪取したものだがこの機体、このコクピットはもう充分過ぎるほど乗り慣れた。
だから心は思ったより冷静だ。目を開いてキッとハッチの彼方前方を見る。

『出撃する!今日こそ"足つき"を落とすぞ!』



◆My love story◆



勢いよくカタパルトを飛び出したものの"足つき"を捉えるまでには少々時間がある。 イージスの中で冷たい目をしたを思い出し、アスランは溜息をついた。 「キラを討つ」と言い身を翻してデッキを後にした彼女は、それからまた一人塞ぎ込んで、 キラと旧友な自分が軽々しく話しかけられたものではなかった。

優しくて、朗らかで、有能な整備士の彼女。 それが一変変わった顔を見せたのは、 やはりキラと出会った事で開いてしまった過去に受けた心の傷が大きかったと言えよう。

が段々と曇る顔つきになったのは、戦争を身近に感じてからだ。 プラントにある軍の整備についていられたのなら、 辛い経験を思い出す事も無く、あんな顔つきにはならなかった。 けれど、彼女がいなければこうもスムーズに機体に乗れる状況ではなかったとも思う。 いつもクルーゼの人選にミスは無い。

・・・』

アスランのサイドモニターはディンを映す。 あの日、Xナンバーの奪取から始まったこの長い戦いは、此処で終われるだろうか。 いや、もう此処で終わらせなければならないのだ。



さん」

アスランを先頭に空を駆ける4Xナンバーとディン。 ニコルは無線を利用してへと話しかけた。

『はい。ニコル。どうしました?』

はコクピットに入るまでは少々固い表情をしていたが、 出撃してからは肩の力が抜けた、と言うか抜いた。 それは戦場へ出た時に感情の思いのままに戦っては 的確な判断を見誤るかもしれないと言う事を知っていたからだ。 それに思いつめた顔をしていると、自分を指揮する立場のアスランが困った顔をする。 実際、申し訳ない事にアスランは自分に声をかける時、少し躊躇っていたように思う。

「久しぶりの空、気持ち良いですね。気を引き締められます」
『ええ。そうですね。補給の時に浮上しただけで、またずっと艦は潜水してましたからね』

Nジャマーの影響で互いの場所を目視でしか確認出来ないが、 時々雲の合間から見えるブリッツはグゥルに乗りの近くを飛んでいた。

「ねぇ、ちゃん、ずっと部屋に居て何してたの?」

その後ろを飛行していたバスターからはディアッカがニコルに続いて話しかける。 ディアッカもアスランと同じで出撃前の彼女に一歩引いていた。 だからの様子を伺っていたとは本人の手前言えないが、 ニコルと普通に話をしている彼女に安心したらしい。

『えっと、ディンは全武装が実体弾兵器なので フェイズシフト装甲に対する攻撃力は皆無に等しいんです。 なのでサーベルを標準装備に加えようと思って設計を見直してました』

チラリとディアッカがの機体を見る。 確かにの乗るディンは76mm重突撃機銃、90mm対空散弾銃、6連装多目的ランチャーが標準装備だ。 最高速度や航続距離は地球連合軍の主力ジェット戦闘機F-7D スピアヘッドの半分以下でしかないが、 低速域での運動性では上回っており、航空機では通常ありえない角度からの攻撃が可能である。 なのでが言ったようにフェイズシフトの無かったC.E.70の三月に設計されたものなので装備は実体弾だ。 しかしこの機体だけビームサーベルが腰部左側のストレージに収納されていた。

『ビームライフルも考えたのですが、 今のままじゃ重量も考慮しないといけないので装備不可能でした。 ディンは飛行能力を高めるため極端な軽量化が図られてるので、 耐弾性は非常に低いのが難点なんですけど援護の目くらましくらいは出来ると思います。 これらを修正しようと思ったけど時間が無く開発まで手が回りませんでした。 まぁ、仕方有りませんね』
「へ、へぇー」

ディアッカはそんな事を簡単に理解しやってのけてしまうに圧倒された。 Xナンバーの修正もそうだったが、機体の改良は時間がかかると聞いたのは本当かと疑ってしまいそうなほどだ。 元来メカニックのの専門分野なのだけれどそんな作業を短時間でこなしてしまうなんてコーディネーターと言えどうそうそう居ない。 むしろ彼女だけではないかと実感する有能さに驚き舌打った。



「その装甲で出るんだ。やられるなよ」

一人静かに集中していたイザークも会話に入り込む。 散々辛酸を嘗めさせられていたストライクを目前に控え、少しばかり高揚していたイザークだが のディンの説明を聞くと口を出さずにはいられなかった。

フェイズシフトがあるならまだしも耐弾性が極端に低いディンではどんな攻撃からでもダメージを喰らってしまう。 ニコルが言ったように、身を投げてでもストライクを討とうなんて考えたら簡単に返り討ちにあってしまうかもしれない。

『はい。イザーク、貴方もお気をつけて』
「・・・以前もそう言ったのを覚えてるか?」

 ― 戦場は、死にに行く所です。お気を付けて ―
 ― お前に言われなくても分かってる ―


『・・・あ、はい』
「此処から先は死にに行くところだ、気をつけろ」

言ったとしても、どうしようもないのが戦争だ。 だが、彼女なら、彼女の能力があればそれも大丈夫だと思いたい。 イザークは息を吐いて真っ直ぐ前を見た。 自分以外にもエリートを勝ち取った仲間が三人もいるんだ。 安心して良いと思おう。 そして、が危険な思いをする前にさっさとケリをつけてやる、と。

『・・・分かりました』

は静かに答えた。 アスランの旧友と知って、でも感情のままに、プラントの為に、キラを犠牲にしようとしている自分に、 どうしてこの人はこんなにも優しいのだろう。 イザークは自分の渦巻く醜い部分を知らないからそう言ってくれるのだろうが、 もし知ってしまったら、その時はどんな顔をするだろう。

『イザーク』
「何だ?」
『・・・帰ったら、また・・・』
「・・・・・?」
『いえ、何でもありません』

は言いかけた口を噤んだ。 だって、それでも、知って貰いたい。だから帰ったらまた話を聞いてなんて、 そんな都合の良い事ばかり言えない。 今自分の事を話すとしたらアスランとキラとの間柄をふまえて話す事になってしまう。 それに、アスランだって悩んでいるんだ。 キラと戦いたくないと自分に言ったのに、自分がその相手を討つと言う。 あの時アスランがどんな顔をしていたか、思い出せない。 自分のような存在に言われて怒らせた?それとも、悲しませただろうか。

でももう遅い。戦地に立つと決めたのは自分自身なのだ。


『はい』

暫し沈黙した後、今度はイザークが呼びかけた。

「帰ったら、良いものをくれてやる。だからやられるなよ」
『・・・え?』

スピーカーから、優しい声。 余りにもいつもと違うから顔の見えない声だけのこれはイザークのものかどうか疑ってしまいそうになった。 声色が少し変わっただけで、明らかにイザークの声で違う筈が無いのだけれど、だって。

「えー?良いものって何ですか?イザーク」
ちゃん良いなー。おいイザーク、俺にもちょうだいよ」
「う、うるさい!貴様等はと違ってMS乗りだろうがっ!当たり前の事をしてる奴らにはやらんわっ!」

戸惑っていると、無線を通していた為ニコルとディアッカにも届いたようでからかいの言葉が飛んで来た。 イザークは普段の威勢の良い声で二人に返し、また二人は嬉しそうにそれを返す。 いつもそうだ。皆こうやって良い雰囲気を作ってくれている。 冗談めいた声でイザークへと語りかける二人に、思わず笑みが漏れる。

『楽しみにしてますね!イザーク』



『アスラン』
?」

一言イザークに添えたは自分が乗るディンの機体をイージスに寄せた。 スラスターが鳴り、疑問符を浮かべたアスランがチラリと隣を見る。

『あの、私だけが知っているのにごめんなさい。でも・・・』

今回の決意は、揺ぎ無い、揺るがない。 それをアスランは大切な仲間だからちゃんと伝えておきたかった。 イザーク達が自分の心を軽くしてくれたから今なら言えそうな気がする。
は下唇をぐっと噛んで言葉を探した。けれど、

「良いんだ。俺こそ何も出来ずに、ただを困らせてばかりでごめん」

言葉を遮るアスランの落ち着いた声が返ってくる。
覚悟が出来ていたのはだけじゃなくアスランも一緒だったのだろうか。

『・・・そんな』
「大丈夫。今度こそ俺が討ってやる。は俺達の援護を頼む。ディンでの近距離戦闘は危険すぎるからな」
『・・・分かりました』

だから自らが討ちに行くな、と意味を含めたアスランは決意の籠った声で力強く言い切った。
「自分が討つ」と言った事でアスランの気持ちに拍車をかけたのかと心痛く思ったが、 今更後悔してももう遅い。 は視線を落として静かに頷いた。

「なぁ・・・、」
『はい??』

暫しの沈黙。はアスランの声が聞こえるのを待った。

「また・・・、笑ってくれるか?」

おずおずと聞いたものだから少しだけ元気の無い声になってしまった。 アスランはモニターに顔が映し出されないのを救いに思った。 こんな恥ずかしい事を聞いた後の顔、どんな顔をしているか自分にも分からないが 情けないに決まっている。だから彼女には絶対に見られたくない。

『アスラン・・・』

アスランの言葉には自分の言動を思い返した。 友人を討つと言った自分は一体どんな顔をしていただろう。 どんな顔をして、この人を困らせたことだろう。 けれどこうやって言ってくれるなんて、やっぱり優しいのだ、アスランは。 そう思うと自然と笑顔になってしまう。は胸に手をあて、大きく息を吸った。

『勿論です!私は貴方が好きですから』
「え・・・?今、何て―・・・」



「はぁ!?」

アスランが聞き返そうとしたその時、イザークの間を切るような声がスピーカーから聞こえてきた。 がふと気付くと、キラとの事を聞かれないように個人無線に切り替えたと思ったが、 なんと未設定のままで全周波を利用した状態だったらしい。

『あっ!違うんです!好きって、あの・・・』

大丈夫。キラ、とストライク、と言う単語は出していない。
けれど自分が発した言葉を思い返したは自分で自分にビックリし、慌てて否定しようとした。

『あ、あの!イザーク。好きって言うのは、本当なんですけど、でも、あの・・・、 仲間っとしてって言うか、アスランには素敵な婚約者が居て、それに・・・、ね!アスラン!』
「・・・・・」
『アスラン!?』

が呼びかけようにも、ポヤンと花を飛ばしているアスランには既に聞えないようで 何を言おうが言葉は返って来ない。 違うと声を張ろうにも、自分でも変な事を口にし驚いてしまって上手く言葉が出て来ない。 手をわたわたと動かすが、誰の目にも入らず伝わらなかった。すると、

「恋愛感情無しって事ですよね?さん」
『そ、そうなんですよ。ニコル』
「良かったじゃん。イザーク」
「何だと?ディアッカ!違うぞ!俺達は・・・」
「はいはい。ってか"俺達"って言った?今?あーやしー」
「・・・貴様!討ち殺してやる!!」
「ちょっ、イザーク!危ないじゃないか!」
「そうしてるんだ!!避けるな」

ニコルが言葉を足してくれたお陰で勘違いは免れたけれど、 それ以降の会話を彼等は聞いているのか、いないのか。 音割れするくらいイザークの声が響き、デュエルのライフルがバスターへと放たれ バスターは俊敏にそれを避ける。

これから行くのは戦場で、命をかける場所なのに 不謹慎ながらもはこの五人で居れる「今」を嬉しく思った。



「目標確認。死角からの攻撃に気をつけろ!」

アスランの声が聞こえ目をやると、雲の合間から"足つき"の機影が見える。
"足つき"は煙幕弾を発射し、徐々に船体を覆い隠していた最中だった。

「来たぞっ・・・!」

煙幕で覆われた視界が晴れた途端、デュエルとの乗るディンの前にスカイグラスパーが飛び出て来た。 向こうは二機の合間をすり抜けると機体を旋回させその場から距離をあける。 が散弾銃を撃つが高速のそれは雲に身を隠してしまった。

「散開!」

アスランの声がスピーカーから聞こえるのと同時に今度は煙の中からビームが発射された。
煙弾幕が"足つき"の周囲を覆い、射線が読み取れず各々先ずは回避に徹底したその時、 ストライクが煙の中から飛び出してきた。 反射的にグゥルに乗ったデュエルとバスターが身を返してビームライフルを撃つ。 しかし向こうはこちらの位置が分かっているのか、 難なく攻撃をかわし、飛び上がった空から落下しながらも体勢を崩す事無く砲撃してきた。

『イザーク!ディアッカ!』

の機体は幾らか高速な為、身を反らせて攻撃を避けられたが、 砲口から発されたビームはデュエルとバスターの二機のグゥルを迷いなく貫いた。 残念ながら飛行能力を持たないデュエルとバスターはなすすべもなく海へと落下していく。 イザークがライフルを撃つも降下中は標準が定まらずストライクには当たらなかった。 も応戦するがPS装甲に殺傷能力を持たない攻撃では目くらましにもならない。 続いてディンの両脇を通過したイージスとブリッツがかかったが、 ストライクはビームをかわし煙の中へ戻ろうとスラスターを噴射し、後退に急いだ。

「行かすかっ!」
『アスラン!』

がアスランを止めようとするが、アスランは身を隠される前に、とストライクを追う。 「今日、此処で討ち取りたいんだ。討ち取らなければならないんだ」 と、そう思う気持ちが抑えきれずぐっとレバーを握り締める。 だが、煙の奥から"足つき"の援護射撃が行われ、 イージスはストライクを追う事が出来なかった。

『深追いは危険ですよ』
「ああ分かっているっ。、お前は後退しろ」

一度引いたアスランにが気遣うように言うが、返ってくる声は鋭い。 先程の会話とは違う雰囲気に、思いつめている感情が此方にも伝わってきた。 はアスランに言われた通り距離をあけると低空飛行に切り替え海面から状況を見る。

「来たぞ!」

アスランが声を荒げると煙の中からストライクが現れた。 なんと片手にシールド、片手にライフルを装備していた。 この短時間に、と思っているとストライクはスラスターを噴射しイージスとブリッツへ向う。 ストライクに気を取られていた二機は雲の合間から出てきたスカイグラスパーに気付かなかった。 ブリッツがスカイグラスパーからのミサイルに撃たれた。 怯んだのを見落とさなかったストライクはビームサーベルですかさず攻撃しブリッツの右腕を切り落とし、 体勢を崩したブリッツを蹴って高く飛び上がる。

『ニコル!!』

たまたまブリッツの落下地点付近に後退しいたはバーニアを吹かしグゥルに乗るブリッツを海面すれすれで受け止めた。 勢い良く落ちて来た機体の重さには耐えたが、ブリッツとグゥル両方の重量ではとてつもない衝撃が走る。

『・・・っ!!大丈夫ですか、ニコル!?』
「あ、有難う御座いますっ!」
『想像以上にストライクは腕を上げています。貴方も離れた方が良いかもしれませんね』
「は、はいっ・・・!」

ブリッツがしっかりと体勢を立て直すのを確認してから上空を見上げ戦況を伺うと、 ストライクとイージスはぶつかり合いながら群島の一つへと降りていた。

『ちっ・・・!』

イージスへ向けて"足つき"の援護攻撃が始まり、は"足つき"を睨みつけては舌打ちをした。 急に志願したのは自分で、無理を言ってあてられてた機体なのだが、 この性能には正直満足出来るものではない。 ディンにはPS装甲が無く、ミサイルとバルカンの応射をまともに喰らってしまう。 援護と言ってもこの攻撃の雨の中へは入って行ってはただ犬死するだけだ。

『どうすれば・・・』

MS戦になったストライクに援護攻撃が当たらぬよう "足つき"は攻撃を止めると、徐々に戦域から離れて今度は静かに策敵をしている様子が伺える。

『やっぱりPS装甲が無くては駄目だ。此処に「わたしの」機体があればっ!
 あの戦艦が自己防衛に集中したら、こっちは何も出来ない』

が"足つき"への攻撃を諦めイージスへ視線をやると、 そこで展開されていたのはストライクの長剣が振り下ろされ銃身を切り落とした瞬間だった。 は再度"足つき"を見る。 やはり徐々に距離を置いて居る。今なら確実に"足つき"の攻撃も無い。 急いでストライクに向かえば、もしかしたら間に合うかもしれない。 攻撃はきかなくても、ストライクを怯ませるくらいは出来るだろう。 それに上手く距離を詰められればビームサーベルでダメージを与えられる。 はキーボードを取り出した。

『大丈夫だ。落ち着けっ・・・。駆動系の出力を最大に書き換えて―』

スラスターを噴射した機体は速度を増し、背の六枚羽が大きく開いた。



尚も二機は白熱した戦いを続けている。 イージスが使い物にならなくなった銃を捨ててビームサーベルで切りかかるが、 ストライクは力強くシールドで受け止め流した。 それでも、と機体を翻したイージスが形振り構わず駆け向うその時、 ストライクを討ちとってやらんと言う気持ちが焦り出たのだろうか。

機体の赤は一瞬にして失われた。
イージスのPSシステムが落ちたのだ。

『アス―』

もう少しで距離が詰まると思っていたがアスランの名を呼ぼうにも、 突然喉の奥がキュっと閉まる感覚に襲われた。 だけじゃない、アスランもそうだったのか、 イージスはその場に立ちすくみ動かない。ただ、ストライクの剣が振り下ろされるのを待っていた。

『止めて、キラ・・・!!』

は更にフットベダルを強く踏む。 ストライクもイージスとの戦いで此方に気付いていないようだ。 ディンはサーベルを取り出し、しっかりと構えた。 もう少しで、キラに手が届く。だが。

「アスラン、下がって!」

の前に、突如ブリッツが現れた。 別の小島へ避難していると思っていたのにミラージュコロイドを展開し、ニコルも近づいていたのだ。



なぜならニコルにはの、ディンの海面上に飛沫を上げながら駆る姿が見えていた。 彼女は自分を犠牲にしてでもアスランを、仲間の誰かを守ることだろう。 自分は大気圏上での戦いから分かっていた。どう言った行動をするか、多分、一番知っている。 は「生きる」とか「死ぬ」等考えず、守ることだけを考えてしまう人なんだって。だったら―



ブリッツは残った片手にランサーダートを持ち、直ぐ目の前に居るストライクへと襲いかかった。 しかし、向かってくるブリッツを見つけたストライクは、 "キラ"は反射的に身体が反応したのか既に剣を薙いでいた。



『ニコル!何やってるんだ!』

ストライクの弧を描いた射線上に居たニコルへ声を荒げると、 は力のままにレバーを引き、無理矢理機体をブリッツの前へと滑り込ませた。

「なっ、さん!?」

対峙する二機へと向かったブリッツの前へ現れたディンに気付いた時にはもう遅い。 鈍い痛みがニコルの座るコクピットまで走る。ニコルはによって突き飛ばされていた。

何故?自分はの背を抜いていたと言うのに。
いや、そうじゃない。それが出来るのが彼女なんだ。 それも一番、知っていた筈じゃないか。

と、言う事は、ストライクのサーベルの矛先は。







ディンの機体が胴体を境目に切り取られていくのをアスランとニコルはただ見つめていた。

 ・・・・・・?

アスランが瞬きも出来ないまま小さい声を漏らすと、ストライクも同じくらい呆然としているのだろうか。 薙いだ形そのままに動きを止めて凍り付いていた。 落とされたデュエルとバスターが島へと上がって来たが、二機もそれ以上武器を構える事も、足を動かす事もしなかった。 だって、見える世界が全て止まっている。



そんな中、キラリ、空に光る何かにアスランの虚ろな瞳は視線を寄せる。
ひらりと舞ったそれはいつもの肩に身を預けていた蝶だった。

あれはアスランが花を行き来するような、そんなの後姿を想像して作った蝶。 を思い描いて選んだ色は、何にも染まっていない眩しいほどの白。 澄んだ空から降りてくる太陽の光を一身に受けて輝くそれは 自分で作ったのに息を呑むほど美しく見えた。

しかし、不意に影を作る何かが空へ投げ出された。 見上げると沢山の機体の欠片の中に一つの人影。 それはそれはとても綺麗な放物線を残して舞い上がる。



『・・・ッ!!』



アスランが叫んだ途端、世界が正常な時間を刻み動き出し、続いて切り裂くような爆発音が唐突に響く。 のバイザーが割れて破片が流れる度にキラキラと軌跡を作り、 モニターを通して見るそれは作られた映画のワンシーンのようだ。

!?」
さん!!」
「おいっ!」

がアーチを作りながら重力へと引き寄せられていくのを見ていたイザークが、ニコルが、ディアッカが叫ぶ。

― 誰の声も今のに届かないのは分かっているのに ―



そして彼女は静かに地上へと舞い降りた。