≫宙(そら)に輝くどれが貴方だろう きっと一番煌めいているはず (08.11.15)


あの日から、あの人以外に私を「必要」と言ってくれた人はいただろうか。
私が生きている意味は一つしか無いと思っていたけれど。

でもあの時、どんな形であっても
貴方が言ってくれたから。



◆My love story◆



『・・・ロスト、ですか』
『ああ、どさくさに紛れて逃げちゃったんだってさ』

アルテミス襲撃はブリッツの作戦が功を奏し難攻不落と言われた要塞は破壊された。 しかし、アルテミスへ逃げ込んでいた"足つき"とストライクはその混乱の中を巧く立ち回り逃げ切ったようだ。 ブリッジにてゼルマン、イザーク、ニコルが戦略パネルを囲む中に居たディアッカが 嘆息交じりに困惑するを見て苦笑した。

『今L3ですよね。"足つき"が動くとすれば・・・』
『あれ。そう言えば何でちゃん此処に居るの?いや、居ちゃ駄目だとかじゃないんだけど』
『あ』

戦略パネルを見ながら何かを考え始めたを見て、ディアッカは首を傾げた。 当り前のように此処に居たけれど彼女は整備士であり、当のも「言われてしまった」とばかりに顔を顰める。 此処へ来たのはガモフの艦長・ゼルマンに呼ばれたからなのだが、 ディアッカにブリーフィングに加わる意味が分からないのも当然だ。

『いや・・・』
『私が呼んだんだ。彼女は機械関係だけじゃなく兵士としても大変優れていて、 クルーゼ隊長にも一目置かれている位なんだよ。だから何か良い案があればと思ってね』

が困って言葉を選んで居るとゼルマンが合間から声を挟んだ。 隠す事では無いのだけれど説明するのは難しい、と目を泳がせていたに差し出された言葉は ディアッカを納得させ、隣に居るニコルの眼を丸くさせたが、 近くに立つイザークは戦略パネルの縁に寄り掛かり黙ってそれを聞いていた。

『兵士?だからMSも乗れるんですか。凄かったですよ。あのジンの動き』
『まぁ・・・。MS戦も必須科目でしたから・・・ね』
『って事はアカデミー?』

はニコルの言葉に首を傾げながら明後日の方を見、頷く。 その反応の意味を読めていないディアッカはさらに質問を加えた。

『はい。一応居ました。皆さんが入る前にですけど』
『へー、そうなんだ。あれ?って事はもしかして年上とか言うんじゃ・・・?』
『はい。そうです。と、言ってもそう変わらないと思いますけど』

ガタリ、とイザークが戦略パネルの縁から滑り体勢を崩す。 それを見たディアッカとニコルが目を合わせてイザークの珍しい反応に疑問符を浮かべた。 イザークは、やはり年上であったか、と、 どう見ても自分より年上とは思えないを見て冷静を保ちながら小さく呟いた。

『イザーク、今日は大人しいな。どうした?』
『・・・何でもない』

ディアッカが、崩れた身体を正したイザークへ視線を向けるが舌打ちをした彼はそっぽを向いてしまった。 答える気は毛頭無いだろう反応にディアッカは鼻で笑って肩を竦める。 何が理由か分からないは きょとんとした顔でイザークの様子を見るが視線が交わる事は無かった。

『・・どうすりゃいいんだ・・・』

イザークは腕を組んで艦橋内の何処でも良いからを見ないようにと視線を外す。 彼女の泣き顔を見て、手を握って、肩を抱き寄せて、 それで気まずくならい奴が居るなら出て来て対処法を教えて貰いたい位だ、と。 悶々とするのは嫌だがディアッカに相談すれば茶化されるのが目に見えているし、 いつも年上を気取って接しているニコルになんてもっと言えるわけが無い。

『兎に角、様子を見るしか無いようですね。ゼルマン艦長』
『そうだな。も何か分かったら連絡をくれ』

イザーク以外は互いの顔を見て頷き合う。 休憩も兼ねて一端ブリーフィングは終了した。



『あー俺もアスランと一緒にプラントに戻りたかったな』

ブリッジを出て廊下を歩くディアッカが、頭の後ろに手を組んで小さく溜息をした。 当初は一日二日で任務を終了させて帰還出来る予定だったが、 宇宙に出てもう10日近く経過している。

『僕もピアノ弾きたいです。今、こんな事言うのは不謹慎ですけどね』
『戦争が終われば好きなだけ弾けるよ』
『そうですね』

何気ない会話をしながらラウンジへと入る二人の後を、は歩いていた。 そのまた二、三歩後ろを歩くイザークは、 目の前を歩く小さな背中を見つめてはどうしたものかとまだ考えている。

さんも此処に座って下さい』
『私も一緒で良いの?』
『勿論ですよ』

ラウンジの中は戦闘配備を解かれたからか、 乗組員がドリンクを飲んだり食事をとったりと、各々の時間を過ごしていた。 彼等と同様に休憩時間を過ごそうと周りを見回していたはニコルにすすめられて椅子に座る。

さんはプラントに戻ったら何がしたいですか?』
『私?』

席に着くの隣に腰かけたニコルは可愛らしい笑顔をに向ける。 その顔は少年そのもので、楽しい休みを心待ちにしている純粋な気持ちが伺えた。

『ええ。ご家族も待ってらっしゃるでしょう?』
『家族・・・。そうですね。作戦前から随分会いに行って無いから久しぶりに会いに行こうかな』
『そうだよ。行ってあげな。喜ぶぜ』
『・・・喜ぶ、か』

ディアッカの言葉にはラウンジから見えるまたたかない星を見て、誰にも聞えない程度に小さく呟いた。

『此処良い?』

もう一つ空いている隣の席にミネラル・ウォーターのボトルを四本手にしていたディアッカが まだ答えを聞かないうちに座る。 そのまた隣の席、つまりの正面の席に座るイザークを筆頭に 持ってきたボトルを順番に配ると蓋を開け一口含んだ。

『アスランは今回の帰還で婚約者に会いに行ってるかもな』
『へぇ、婚約者居たんですか?』
『ラクス・クラインですよ』
『アスランって・・、ああ!「ザラ」ですもんね。そっか。やっぱりザラ議長の・・・』

ザラ家とクライン家の関係は政略結婚とは言えプラント全体が公認している。 それに両家とも評議会の議員で勢力者ともなれば理由を聞かずとも頷けた。 そんな中、会話に入らないイザークを見てディアッカが皮肉的な笑顔を浮かべる。

『ラクスのファンなイザークはご機嫌斜めか?』
『え?イザークってそうなんですか?』

は意外とばかりに驚いた。 確かにラクス・クラインの澄んだ歌声は誰もを癒し魅了する。 自分もラクスの歌声には聞き惚れる事があるし、柔らかい容姿は声と同じでふんわりと可愛いと思っていた。 けれど、イザークがそう言うものに興味を持っているなんて。 自室で聞いているだろう想像をしようとしても、いまいち想像に欠ける。 と、言うかそもそもが見るイザークは、生活感自体がほとんど感じられなかった。

『婚約者の居ない俺達には、婚約者って存在が居るだけで羨ましいのにな。 何でも出来て、まだあんな可愛い婚約者居るなんてさ』

ディアッカはまた空気の読めない事を言ってくれる。 イザークの鋭い視線はディアッカを刺し、握られた拳は有無を言わさず殴ってしまいそうだ。 正面と言うイザークの顔が良く見える席についてしまったは、 その様子を見てイザークの注意を逸らそうと声を発した。

『か、彼女のどんな曲が好きなんですか?』
『・・・俺は居るぞ』
『え?』

の気遣いを無視したイザークはディアッカを殴ろうとしていた手を押さえてはっきりと言い切ると 皆から視線を逸らし落ち着こうと組んだ足と同じ方向を見る。 何処か余所を見る顔が不機嫌な所を見ると、「ただの整備士」のが相手と言うのは言いたくない模様。 は撤回した筈の関係の言葉に驚いたけれどプライドからの発言なのだろうと理解した。 イザークとしては、アスランに「居て」自分には「居ない」と言う劣等感を感じるのが嫌なのだろう。 ディアッカが故意に発した分けでは無いのは分かるが、気に障ったのだ。

『俺には婚約者が居る』
『まじかよ!?俺の知ってる子??』
『さあな』

「何だよ、それ」と続きが気になるディアッカの好奇心を跳ねのけてイザークはを見た。 との婚約解消は本望と言えばそれまでだったが、 勝手にから解消と言われた事を思い出すと些か腹が立ってきた。

『・・・・・』
『な、何か?』

自尊心が高いと分かってもイザークの思う事が分かるわけではない。 は急にイザークと眼が合った事に戸惑った。

『・・・何でも無い』

目の前に居るのは自分を困惑せている事にも、 解消と「勝手」言った事に不満を抱いているのにも気付かない。 相も変わらずぱちくりと大きな目を瞬かせるだけの何も分からないを睨みつけると イザークは鼻を鳴らしていつもの様にそっぽを向く。

『ごめんね、ちゃん。イザークこんなんで』
『ディアッカ!貴様にこんなとか言われたくない!!』

イザークの態度に、面倒見の良いディアッカがに苦笑いを向ける。

『いいえ』

イザークはただ不器用なのだろうとは思う。 彼の言葉は的を得ているからきつく感じるだけであって咎める事ではないし、 彼にとってバツが悪いから言葉を紡げず視線を逸らすのだろう。 ただ、やっぱり理由は分からないけど。 でも自分にだって優しく言葉をかけてくれたり、慰めてくれたりとしてくれる。 何より「必要だ」と言ってくれたのは、彼。
は水を口に運ぶイザークを見て、ほんのりと笑った。

『イザークは、とても素敵な方ですよ』
『ブッ・・・!!』

困惑させた上ににまた何を言い出すのやら。 そっぽを向いていたお陰で、イザークの吹いた水はディアッカに直撃した。



一時プラントに戻り議会で経過報告をクルーゼと共にしたアスランは出発前にとある場所に来ていた。 花が舞い散り、風に流されて軌跡を描く。 アスランが手に持つ花をそっと添えれば、「レノア・ザラ」と書いてある墓標に悲しい視線を落とす。

彼の母親は「ユニウス・セブン」で農学の研究をしていた。 優しく、優秀な人材だったが彼女も「血のバレンタイ」の犠牲者だ。 ただ人の為に生きていただけなのに一瞬にして消えた命。 戦争の無情さを思い知らしめる様な遺体の無い墓石にアスランは下唇をぐっと噛みしめ空を見上げる。 人工の空に、アスランはまだ見えない星を探した。 あの中のどれかに、自分の母親の面影があるのではないかと。

「我々は我々を守る為に戦う。戦わねば守れぬのなら、戦うしかない」

議会でパトリック・ザラ、アスランの父親が言っていた言葉が思い出された。 彼はそれを戦争の文句としてよく口にするのだが、その度にアスランは心に誓う。 戦争が嫌だと言っていても何も変わらない。 大事な人を失って、傷ついて、けれどそれだけなら嘆いていないで平和を望む自分が立ち上がるべきだ、と。 これからも失いたくない大事な人達、それと蝶の様にひらひらと笑う彼女、の事を―。

『守る為に戦う・・・!』

アスランは改めて、自分の意思を確認した。