≫いっその事閉じ込めていたかった あの想いも、あの声も、 (08.11.07)
「アスラン、イザーク、ディアッカ、ニコルは"ストライク"と"足つき"を討つ。
ミントは戦闘映像と情報を確保してくれ。
破壊してしまっては映像だけしか評議会に提出出来んからな。
地球軍も興味深いものを作る。・・・出来るか?」
『何それ。出来ないって言ったって「やれ」って言うんでしょ?』
ジンのコクピットに座るミントは、メインモニターに映ったクルーゼに向かってバイザー越しに意地の悪い笑顔を向ける。
クルーゼはミントの物解りの良さによし、と頷くと通信を切った。
ミントが画面を外の映像に切り替え、パチパチと上部にあるスイッチを鳴らし機体を起動させ始めると、
カタパルトには聞き慣れた管制官の声がスピーカーを通してデッキ内をエコーし、ジンの画面にも管制官の顔が映し出された。
「ミント!ジン、発進どうぞ」
管制官の声と重なってハッチがゆっくりと開く。
Gへの衝撃に備え、しっかりとレバーを握るミントの視界にはデブリ一帯に広がる無数の星屑が見えた。
『ミント・ハーヴェス。ジン、出ます!』
◆My love story◆
宙域に投げ出されたミントのジンはバーニアを吹かし戦闘区間からは少々離れた所で一度移動を停止した。
もう既に出たであろう四機の機影をレーダーで探す。
ヴェサリウスは"足つき"の動きを読み先回りし網を張っていた筈だからきっとアスランの方が早く戦場に出ている。
ガモフから一番最後に出た自分は戦闘をする分けではないので映像が映る場所に居れれば良い。
MSも戦艦の数も勝っているし、能力的にも優秀な彼等なら整備士の自分に、しかもジンに援護される必要も無いだろう。
『これかな?』
程遠くない宙域で、二つと一つの大きな熱源を発見した。
熱を放出しては細かに動くそれはMSが戦闘をしている証拠で、動かない一つは戦艦のもだろう。
ストライクとイージス、そして"足つき"だ。
それに向かって行く三機も映し出されているがきっとイザーク、ディアッカ、ニコルの三人だ。
映像判別よりも目視が出来るその場へ向かおうとミントはフットペダルを踏み込んだ。
ミントが辿り着いた時にはもうバスターとブリッツは"足つき"に取りついて攻防戦を務めていたが、
イーゲルシュテルンが二機のMSを自動追尾して弾幕を張り、対空ミサイルも発射されているので、
腕に自信のある二人もなかなか戦艦に近づく事が出来ない様だ。
そんな回避行動を取る"足つき"はクルーゼが言う様に今まで見た事の無いタイプの新型戦艦である事が分かる。
出撃前、ジンに搭載したデータと重ねてみるがどの情報とも一致しない。
カメラの映像記憶装置を起動してミントはその戦艦の行動を自動追尾に設定した。
『さて、ストライクは・・・』
メインモニターをサイドカメラの映像に切り替えて、今度はストライクを追う。
見ると、イザークの乗るデュエルがストライクと戦闘しているではないか。
二つの機影を追いながら双方の動きを見るとストライクは逃げる事で精いっぱいな様で防戦一方だ。
幾らイザークがエリートパイロットであるとしてもデュエルのビームを避ける動きが訓練を受けた兵士のものとは思えない程とても拙いので、
ミントは首を傾げながらそれを見ていた。
やはりナチュラルにあの機体を操縦するのは無理なのではないかと思ってしまうが、
ストライクのスムーズな動きを見るとOSの書き換えは出来ている様に見える。
奪取した4機がどれもあのOSを搭載している筈なのだから、あれだって同じな筈、と言う事は
ナチュラルがそれを自分たちコーディネーターと同じ様にあれだけの時間で調整したのか。
でも、あんなOSをプログラムしていたナチュラルが器用にも短時間で出来るだろうか。
『やば・・・!』
考えるミントはストライクの映像を撮る事を忘れてしまっていた自分に気が付き慌ててもう一つのカメラを起動させた。
このまま戦艦と新型機動兵器を共に捉える様に。
「ミント。ガモフだ。応答しろ」
『―はい?どうしました、ゼルマン艦長』
設定を終え一息付いたミントの通信モニターにゼルマンの顔が映し出された。
「先の戦闘で居たらしいモビルアーマーは出ているか?」
『MA?ムウ・ラ・フラガの?さぁ。一機しか確認出来ませんが・・・』
モニター付近に位置するレーダーに目をやるがそれ以上の熱源は映されない。
MA、と言う事はムウ・ラ・フラガが乗っているゼロの事だろうが、クルーゼはまた感じたのだろうか。
それだけ伝えるとゼルマンはそうかと言い彼からの通信は切れた。
『どうしたんだろ』
ミントはレーダーに視線を下ろし、再度確認する。
何故だか胸騒ぎがし、嫌な予感がするのはどうしてだろうか。
此処は戦場だ。一つのミスが大惨事に至る事だってあるのは、身をもって分かっている。
あの日の様な事があっては、一部の隙も見落としていてはならないと動かし続ける視線は、一機のMSを見てふと止まった。
『イージス・・・アスラン?』
ブリッツが"足つき"を攻撃し、今はバスターがストライクを狙うデュエルの加勢をしているのに、
イージスはただその場に動かずに待機している。
ミントの頭に疑問符が浮かぶ。あれは待機をしているのか。でも目的を持っているのに動かずにいるなんて有り得るだろうか。
と、言う事は動かないのではなくて動けないのか。
それなら、このままではイージスは戦闘の流れ弾に当たる距離に位置してしまう。
思わずミントの手は通信ボタンを押していた。
―プラントと地球で戦争になんてならないよ―
ストライクとデュエル、バスターが交戦しているのを、アスランはただ言葉を無くして見ていた。
機体が動かないのではなく、自分自身が動けないアスランの脳裏に、月面都市コペルニクスに住んでいた頃の記憶が蘇る。
―お前もいつか、プラントに来るんだろ?―
13歳のあの日、プラントへの移住を期に分かれた友達が居た。
優しくて、いつも微笑んでいた、幼年期で一番仲の良かった友達。
自分がプラントに移り住む時もいつか同じ場所に来れる事を願い合って、会える事を楽しみにしていた友達。
音として出ないが口は動く。何故、彼が此処に居るのだ、と。
彼はストライクに乗って、"足つき"を守ってる。
どうして、だって、彼は"コーディネーター"なのに。
「―アスラン!?」
アスランは聞き覚えのある声が聞こえた事でハッと我に返った。
自分より少し距離を置いた後方に、ジンの姿がモニターを通して見える。
ジンから発信されている通信を受信しているモニターに切り替えて画面を見ると、其処にはミントが映っていた。
整備士の彼女が此処に居るなんてどうして、と思わず前に乗り出してミント本人であるのかと確認してしまう。
レバーを持つ手に力が入った。
『ミント!?ジンに乗ってるのか?そんな所で何やっている』
「何やってるって・・・アスランこそ。そんな所に居たら狙われますよ!」
『!!』
そう言った途端にイージスに向かって飛んで来た対空ミサイルをミントがビームライフルを一発だけ放ち的確に撃ち落とす。
目の前で破壊されたミサイルの塵屑と粒子が散り、我に帰ったアスランは周りを見た。
戦闘の流れで段々と"足つき"に近づくストライク、バスター、デュエルの攻防は激しく、
流れ弾がそれらにほど近いこちらにいつ来てもおかしくない。
「ほら!」
次に来るは七十五ミリ対空バルカン砲塔だ。
ミントは装備されていたビームサーベルを引き抜くとバーニアスラスターを吹かして一気に詰め寄った。
振り下ろされるサーベルは手慣れたもので素早い動きがミサイルを一掃し、爆風だけがイージスを掠める。
ジンの動きとは思えないスピードを引き出すミントの能力にアスランは面を食らった。
『君、パイロットだったのか?』
「違いますよ!それより戦わないなら此処から離れて下さい!
ジンの装甲ではストライクと戦闘になった時に守れるかどうか分かりませんから」
まだまだ弾は飛んで来る。
周りが見え始めたアスランは、今度は自分がミントを守ろうとビームライフルを撃った。
上も下も右も左も制限の無い空間は気を抜いては駄目な場所なのに、自分は何をしていたのだ。
『すまない。もう大丈夫だ。君は下がっていろ』
「はい」
ミントはアスランとイージスに異変が無いのを確認すると、ニッコリ笑って返事をした。
アスランが自分を取り戻した頃、ヴェサリウスが"足つき"を捉えていた。
「ガモフより入電!確認される的戦力はMS一機のみ、との事です」
先程ミントにも僚艦にも流した電信が返って来たがその返答を聞いてクルーゼはおかしい、と考え込んだ。
あの拙いパイロットが搭乗するストライク一機に戦局を任せるなんて、あのムウがするだろうか。
先達てムウが乗る"ゼロ"には自分が損傷を与えたのが原因で戦闘に参加出来ないのならそれまでなのだが、
しっくりこないのはお互いを感じれる能力から来ているのかもしれない。
『敵戦艦!距離六三〇に接近!まもなく本館の有効射程圏内に入ります!』
『こちらも攻撃開始だ、アデス』
ヴェサリウスの艦長のアデスに、クルーゼは冷たい笑みを添えて命令する。
アデスが自軍のMSが照準圏内に展開中だと狼狽するが、
クルーゼは友軍の艦砲に当たる様な間抜けは我が隊には居ないさ、とそんな彼を見て一笑した。
隊長にそう言われては号令をかけるしかない。彼は渋々声を張る。
『主砲発射準備!照準、敵戦艦!』
そうアデスが口にした時だった。
クルーゼが突然身体を震わせたのは。
『アデス!機関最大、艦首下げろ!ピッチ角六〇!』
突然の命令に、アデスは虚を突かれた。クルーゼは突然何を言っているのか、と。
それもそうだろう、彼にその感覚が分かる筈が無いのだから。
何故か惹かれあう様に互いが分かり、ラウに憎悪感と虚無感を思い出させる昔から馴染みの身体に取りつくあの感覚。
反応出来ないアデスの先に座る管制官から声が飛んだ。
『本艦底部から接近する熱源一、モビルアーマーです!』
ヴェサリウスがスラスターを噴射したが、もう間に合わない。
死角から現れたムウが乗るゼロは自動防御装置の迎撃をいとも簡単にかわしてガンバレルを展開させ、
擦れ違いざまに機関部を狙ったリニアガンを連射した。
機関区からは爆火が上がり、損傷したヴェサリウスは激しく揺れてそれは勿論ブリッジにも響いた。
『第五ナトリウム壁損傷!火災発生!ダメージコントロール、隔壁閉鎖!』
大きく揺れるブリッジでアデスがゼロを撃ち落とせと叫ぶが、傾き乱れる照準ではそれも叶わない。
クルーゼの眼は鋭く睨みながらゼロを追った。
『前方"足つき"より―、ロックされます!』
続いて管制官が声を上げた。
"足つき"の両舷艦首にあるローエングリンの発射口が開き、プラズマの渦がヴェサリウスに向かって放たれた。
『艦、回避行動!』
アデスが叫ぶがエンジンを損傷したヴェサリウスには難しく右舷を掠った。
またも激しい揺れが艦を襲い、その被害はこれ以上の戦闘は無理だと判断せざるを得なくなってしまった。
『ムウめ・・・!!』
たった一機のMAにしてやられ戦況は一気に逆転されてしまい、
ヴェサリウスの上方へ抜けて宙域を離脱するムウに、クルーゼは憤怒の如くの怒気を現していた。
『ヴェサリウスが被弾?』
戦闘宙域からの撤退命令のレーザー通信がジンへと届いた。
ミントは胸騒ぎはこれだったか、と胸に手を置いて深呼吸した。
混戦するMS戦を追っていたので、クルーゼの乗る戦艦を見落としていた。
幾らクルーゼが乗っていて安心しているとしても、ゼルマンからMAが居ないかと前もって言われていたのに、
ちゃんと確認して、自分が見つけ、
撃ち落としておければ。
『―――え?』
ミントは自分が口走った言葉で思考が停止させられた。
今、私は何を考えた?
『"私が"?"落としておけば"・・・?』
その時、ミントの視界に居たイージスが突如スラスターを噴射したかと思えば、モビルアーマー形態に変形し急加速した。
意識が離れてしまっていたミントはその光にハッとする。
先程アスランに此処は戦場だと言ったのに、自分がそれを認識させられるなんて不甲斐ない。
首を振って呼吸を整えると、しっかり前を見据えた。
イージスが向かって行った先には、デュエル、バスター、それとストライクが交戦していた。
段々と近づくデュエルに向かって、どう見てもストライクはがむしゃらにビームライフルを撃つ。
そのうち、ライフルを向けているのにビームが出なくなった。
ストライクの様子がおかしいと思った瞬間、機体の色が鋼色に変わっていく。
『フェイズシフトが落ちた?』
ミントは前に身を乗り出す。
あの色はフェイズシフトが落ちた時の色、ライフルを撃ち過ぎたせいでエネルギー切れになったのだろう。
これを好機とデュエルがサーベルを構え、一気に間を詰め振り下ろす。
―――やった?
そこに居た誰もが思っただろう。
ストライクの最後を。
けれど、ストライクはデュエルのサーベルの下から擦り抜けた。
イージスの鉤爪の様なアームに、しっかりと捕らえらえて。
「何をする!?アスラン!」
ミントの耳にも無線を通してイザークの声が聞こえてくる。
それもそうだ。クルーゼの命令を聞かず、此処で討たずに何故彼を庇う様な真似をするのか。
イージスのお陰でストライクはデュエルから引き離され、間一髪を免れた。
「この機体、捕獲する」
「なんだと?命令は撃破だぞ!」
「捕獲できるならば、その方が良い!ヴェサリウスも被弾し帰投命令も出ているし、このまま撤退する」
イージスはストライクを抱えたままその宙域を離脱しようとするのをデュエル、バスター、ブリッツが追う。
撤退するのなら自分も、とミントは追いかけようとバーニアを吹かした。
ふとレーダーに目をやると、一つの熱源がこちらへ向かって来ている。
『ゼロ!?』
ミントはフットベダルを強く踏む。
方向を読むと、あの赤いMSのゼロは間違いなくストライクを救おうと向かっていた。
イザーク達も今はアスランの行動によってゼロの接近に気づいてない様子で、まだ何かやりとりをしている。
『アスラン!』
イージスとストライクに割って、ミントのジンが間に入った。
二機はそれによって離れざるを得ない。
「ミント!邪魔するな!!」
そう言葉にした瞬間、イージスを凄まじい衝撃が襲った。
アスランがモニターに目を移すといつのまにか現れたゼロのガンバレルが展開し、尚もミサイルを放つ。
『さっきも言っただろう!撃たれたいのか!?』
「!!」
アスランはミントの声に驚いた。
聞き慣れない言葉使いと、こんな声も出せるのか、と思わせるほど低くて重圧のある声。
モニターに映る彼女を見ると、強い視線が返って来た。
『MS形態にならないと防御態勢が取れないでしょう!早く!』
動けないでいるイージスを守る為にジンのシールドでミサイルを受けるが、ビリビリとコクピットまで震動が伝わってくる。
それに、この装甲ではミサイルを受け止めるには限界があり、持たない。
それが分かったのかアスランは言われた通りにイージスをMS形態に変えた。
「・・ミント・・・だと?」
「え?ミントちゃん?」
「ミントさんが?ジンに?」
無線を通して聞こえたのか、イザーク、ディアッカ、ニコルの声が入って来た。
いきなりストライクとイージスに割って入った、何処に潜んでいたのかも分からないほどの距離にいたジン。
それにミントが乗っていたなんて、知らない、と。
「・・・貴様、何故ここに居る!?」
『すいません。今はそれどころじゃないので』
さっきの真剣な顔から一転、苦笑いをしてイザークにそれだけ答えるとミントはシールドを捨てた。
ゼロから撃たれるミサイルに耐えたそれは、もう持って帰ったとて使い物にならなくなってしまったのだ。
ビームサーベルを引き抜いて、迎撃態勢に入る。
「お前!戦えるのか?」
イザークがミントに問う。
彼をはじめ、アスラン、ディアッカ、ニコルもゼロのスピードにジンがついて行ける筈が無いと思ったが、それは簡単に覆された。
『―メタ運動野パラメーター更新、コリオリ偏差修正、ブートストラップ機動』
ブツブツとスペックを呼び出して居るミントの声が、無線を通して聞こえてくる。
イザークも、アスランもそれを聞いて驚いた。
ゼロを追いながら、ジンのOSをその場で改正していた彼女に。
「ジュールさん、ストライクが離脱しますよ!」
ゼロと交戦しながらも届くミントの声に、イザークはモニターを見た。
驚かされている場合じゃない、追わなくては、と慌ててレバーを引く。
ストライクは"足つき"から援護されながら、何かパーツをを受け取ろうとしていた。
『させるか!』
イザークはグレネードランチャーを構え、放った。
凄まじい勢いの閃光が走り、爆炎が上がり更に爆煙が広がる。
視界が全てそれで埋まってしまうかの様に広域の被害は、確実にストライクを仕留めたと思った。
が、次の瞬間一筋のビームがデュエルの右腕を吹き飛ばした。
『何!?』
右腕部分を失い、イザークは機体のバランスを失った。
フェイズシフトも落ちてしまったストライクから、まさか反撃されるなんて。
けれど、爆炎の中から現れたのは先程とはもう違う―鮮やかなトリコロール色を取り戻したストライクだった。
発射したのは間違いない、あれだ。ストライクの手は巨大なランチャーを構えている。
「帰投しましょう!」
『くっ・・・!』
射程距離内に居ては、今度はこちらがやられる。
ミントの言葉に、イザークはいつもの様に返す事が出来なかった。
それに、ヴェサリウスも被弾しとうに帰還命令が出ているのでこれ以上の戦闘も続けられない。
目の前に獲物を目にしていながらも、イザーク達は後退するしかなかった。