≫After story02 光繋がり 胸響く存在へと (09.09.11)


その後本人が考えていた通り、イザークは戦争中に民間人の搭乗していたシャトルを撃墜した事や、 三隻同盟に参加したディアッカと接触したにも拘らず見逃したなどの罪で軍事法廷にかけられた。

だが、第二次ヤキンドゥーエ攻防戦での赫々たる戦果や、 ユニウスセブンにて結ばれたユニウス条約がプラント側にやや不利な内容だった責任をとってカナーバ政権が退陣したため、 それに代わってプラント最高評議会議長に就任したギルバード・デュランダルの弁護により極刑は免れられる事になる。

デュランダルに恩を感じたイザークは停戦後、自分の遣れるべき事を全うする為、プラント臨時評議会の最年少評議員として就任していた。



『イザーク』
『何だ、ディアッカ。急ぎじゃないなら後にしろ』

地球から戻ったディアッカは、イザークと同じようにデュランダルの計らいで再び軍に身を置くことになった。 大方の仕事はイザークの護衛の任だったが、合間に忙しくするイザークに変わり資料の整理や スケジュール管理などもこなし、忙しなく過ごす日々が続いていた。

『急ぎって言うか・・・』

会議室から出てきた不機嫌そうな顔に声をかけてしまったとディアッカは眉を顰める。 キッとイザークが自分を睨む所を見ると、今日も頭の固い年配議員たちとやりあったのであろう。 イザーク曰く新しい世界になる為には新しい考えも必要なのだが、年配議員にそれは伝わらないらしい。 毎度毎度言い合うが、進歩は無い。 ディアッカはイザークの正義感、熱い弁に他議員たちの反感を買わないかとひやひやさせられていた。

『聞きたいんだけどさ。フレイ・アルスターって子知ってる? なんか、お前に会いたいって言ってるみたいなんだけど・・・』
『・・・フレイ・・・?』

ディアッカの言葉に、怒りにまかせて廊下をカツカツと勇み足で歩いていたイザークがピタリと足を止めた。 フレイと言えばがどうしてか大事そうにしていたナチュラルの女の子ではないか。 戦争中、いつの間にか居なくなったと思ったらまだプラントに居たのか。

『追い返そうか?』
『いや、構わない。そいつは今、何処に居るんだ?』

ディアッカがイザークの機嫌を伺いながら確認するが、イザークは顎に手をあてて考える。 ディアッカが疑問符を浮かべながら指をさす方向を見ると、そちらへ向かって足早に歩き出した。



◆My love story -after story02-◆



『・・・お久しぶり・・・です』

軍の施設へ着くと、広いラウンジでフレイが俯きながら待っていた。 あまり顔を合わせた仲では無いが赤い髪は変わらず印象的で、フレイのイメージがほとんど記憶に無いイザークでも直ぐに分かった。 イザークが向かい合うように座ると、困ったように視線を落として聞こえないくらいに呟く。

『てっきり地球に帰ったと思っていた』

足を組んだイザークは、椅子に深く腰掛ける。 フレイの態度に少しばかり苛立ったが、が大事にしていた女の子だと思うと言葉にして責める事も無くぶしつけな態度だけで済んだようだ。 しかしツン、とした物言いにフレイが慣れる事は無く、おずおずと話を進める。

『戦争中、宙域で動けずに居た救命艇を、プラントに助けて貰ったんです・・・』

フレイの話はこう、だ。
によって戦闘宙域から離脱させて貰ったドミニオンの乗組員を乗せた救命艇は、 地球軍と連絡を取る事が出来ず、そして何処へ行くことも出来ずに暫く宙を漂っていた。 どれほど宙域に居たのだろうかと思った頃、停戦を促す声が聞こえ、そのまま救命艇はプラントへと収容されたらしい。 その後、プラントで擁護されながら地球政府と連絡を取り合い、収容された面々は各自地球へと戻る段取りをプラントのサポートの元、行っていた。

『で、地球へ戻る日時が決まり、それが明日だと言う事か』
『・・・はい。には2度も命を助けて貰ったから、だからお礼が言いたくて・・・』

そう言いながら、フレイは小さく溜息をついた。 一度、ドミニオンに行く前の別れる時ににちゃんと礼を言った。 しかし二度目に助けて貰った時は声を聞くことすら出来なかった。 ただ安全な宙域に救命艇を放ち、物凄いスピードで戦火の中へ戻って行ってしまった彼女。 ずっと気になっていた。あの機体の中に居たの表情は、一体どうだったのだろう、と。

『外交の方に軍へ連絡を取って貰ったのですが「」なんて人は居ないって言われました。 それで、が貴方の名前を呼んで居たのを思い出して、貴方ならがどうしているのか知ってるかと思って・・・』

チラリ、と顔を少しだけ上げてイザークを見たフレイは、やはりオドオドとした態度のままだ。
視線を泳がせ、艶やかな赤毛の先を触りながら声は更に小さな音量になった。

『・・・忙しいのに、ごめんなさい』

眉を下げたフレイは今にも泣きそうだった。 一人も知り合いの居ないプラントで誰を頼る訳ではなく行動出来たのは、の為だからだ。 怖いと思っていたコーディネーターの中で単身動けるのは、ただに会いたいと言う想いがあったから。 明日帰る前に、またいつ会えるか分からなくなる前にどうしても、どうしても会いたくて。

『会わせてやる』
『え?』

肩を落としていたフレイへ呆れたような表情を見せたイザークだったが、椅子から立ち上がると小さく頷く。 願った展開だったが、思わず情けない声が出たフレイの瞳は今までとは打って変わりキラキラと輝いている。 イザークはその嬉しそうな顔を見て「今の」の状況が頭を掠め、静かに口を開いた。

『ただ、お前の知っているではない。それだけは頭に入れておけ』



フレイを後部座席に乗せ、助手席にはイザークが頬杖をついて外を眺める。
エレカを運転するディアッカは隣に座るプラチナ・ブロンドを一見し苦笑した。

『俺も驚いたけどな、最初ちゃんを見た時は』
『俺だって、・・・二コルだってラスティだってそうさ』

プラントに帰って来たディアッカは、ジュール邸で当たり前のように花を愛でているを見て言葉を失った。 最初は、婚約者だと言っていた彼らだから、既に婚前の同棲を始めているのかと思った。 しかし、そうじゃない事は、久方ぶりに見たの、見た事の無いほど純粋な瞳で分かった。 その瞳は自分が「知らない」瞳。自分を「知らない人」として見ている瞳。

自分が居ない間に、少しだけだが関係を築いたニコルとラスティと共に居る場面はまるで別人だった。 最後に見たの顔は張詰め、何処か怜悧さを持っていたが、今の彼女はまるで、 ―戦いを知らないただの女の子にしか見えない―そう思った。

『アスランにはまだ言ってないのか?』
『言ってどうする。お前の事忘れてるだなんて、わざわざそんな事』

窓の外を見ていたイザークへと問うディアッカに、言葉以外のものは返らない。
でも、ただじっと外を見ている背中は表情を見なくても思いが分かる。

自分だったら好きな女が自分をすっかり忘れているだなんて、聞きたくない。 それに自分の思い人の事が好きな男といつの間にか同居し、傍らで見守っているだなんて。 だからと言ってアスラン自身がプラントへすんなりと戻れるわけじゃない。

なら、知らないで思い続けている方が幸せなんじゃないか。
それに、いつかまた会える日までに、記憶が戻っているかもしれない。

『・・・ニコルやラスティもそう思ってるからアスランに連絡しないんだろ・・・』

イザークは溜息混じりの声でそう呟く。
確かにそうかもしれないと思ったディアッカも、それ以上は口にしなかった。



エレカがジュール邸の門まで着くと、それより先の庭でちょこちょこと動く人影が見えた。 向こうもこちらに気づいたのだろうか、服に土がつかないように着ていたエプロンの裾をご丁寧に汚し、それに気づいたのかパタパタと叩く。 そしてある程度落とした土に満足したのか、門前へと駆けて来た。

『イザーク、ディアッカ、お帰り!あれ、お客さん?』

エレカから降りた二人の後、後部座席から見たことの無い少女が現れた。
が軽く会釈をすると困った顔つきで礼を返し、チラリとイザークを見る。

『・・・ああ、。お前にな』
『私?』

それだけ言うと、イザークとディアッカは少し離れた場所へと歩き出す。 そして丁度この前ニコルとラスティに手伝って貰い作り上げたガーデンスペースにある椅子へ腰掛けると、気にも留めず静かに二人で話をしだした。

『えと・・・、私に用って・・・?』

イザークを名残惜しそうに見ていた瞳はフレイに移り、は首を傾げながら自分を指差す。どう切り出せば良いのか、困っているのが目に見える。 逆に、フレイは車の中でイザークとディアッカからの経緯を聞いていたので、気持ちは落ち着いていた。

本当は、エレカで話を聞いた時は今彼女がどうしているのか、 あれからどうなったのか知りたかったけれど、まさかこんな風になっているとは知らずただ驚いた。 途中ディアッカが車を止めて「それでも会いに行くのか」と再確認してくれたが、 自分の気持ちは変わらず会いたかったから、地球に帰る前に顔が見たかったから、それでも構わないと言った。

『あの・・・、久しぶり・・・』
『もしかして、貴女も「前の私」の知り合いだった人?』

無理に作ったフレイの笑顔に、は無邪気な声で返す。
それを見て、フレイの胸は締め付けられたような気がした。 だって、話し方も、表情も、仕草も全部違う。顔と声が一緒なだけで、別人だ。 イザークが「頭に入れておけ」と言った意味が分かった。ディアッカが途中で車を止めた理由が分かった。この事だったんだ。 忘れられた自分達が、感じた胸の締め付け。―そう、きっと私が苦しくなるだろうと知っていたんだ。

『そうよね・・・』

フレイは誰にも聞こえない声を漏らす。 自分が大切にしてきた人が自分を忘れてしまうのは、切なくて、怖い。 イザークと言う人も、ディアッカと言う人も、それを感じたのだろう。

― それでも彼らは一緒に居るのだ。ただ、彼女が大切だから ―

『あの、。会えて良かった。元気そうで・・・良かった』
『今中でお茶を入れるから・・・』
『此処で良いわ。直ぐ帰らなければならないから』

土のついたエプロンを取ったはそれを近くの木にかけて家へ視線を促す。 しかしフレイは首を横に振って、それを制した。 まだプラントで保護されている自分は、好きなように歩き回って言い訳ではない。 きちんと帰らなければならない時間も決まっていて、それはそろそろの時間をさしていた。

『ありがとう』
『え?』

フレイはまだ戸惑うの手を掴み、ぎゅっと握り締めた。 戦争中の冷たい艦内で、唯一温かい声をかけてくれた。彼女の温かい手は変わらず同じだ。

『・・・ゴメン、私貴女に何をしたの?』

突然手をつかまれたことに驚いたのか、はぱちくりと瞬く。
そしての疑問を浮かべる表情に、顔を上げたフレイは口を半ば開くと、伝えたい言葉が頭の中ではっきりと文章になった。



最後に言葉を交わした時、貴女は怒っていたわ。
私が救命ポッドに乗って行くことを、必死になって止めてくれた。
あの顔が余りに懸命だったから、その後ずっと気になっていたのよ。

ヤキン・ドゥーエで、貴女がどんな顔をして、私を助けてくれたのか。




『ふふ。いいの』

しかし、フレイは静かに笑った。そして再度認識する。此処に居るのは自分が知っているではない。 賢明な話し方も、気の張った眼差しも、女性だと言う事を忘れさせるほどの凛々しさも、今はもう持ち合わせていない。 でも、大きな瞳で自分を見るの表情は、悪い気がしない。むしろ、もっと近づけたようにさえ思える。 あの時はただ守られるだけで、ただ怯えるだけだったが、今は同じ女の子として此処に存在出来るからだろうか。

『お礼を、言いたかったから。貴女のお陰で私は今此処に居ることが出来るって』
『えと、どういたしまして・・・で良いのかな?』
『うん。良いわ』

フレイが困ったように伺うを見て笑う。
その時、ふわりとどこからか飛んできたマイクロユニットの蝶が、フレイの肩に羽をおろした。 ―懐かしい―フレイはそう思った。そんなに時が経ってないにせよ、久しぶりに見る蝶は相変わらず白く輝き美しい。 そしてもう一つ、知っているマイクロユニットの緑鳥と重ね合わせたのはきっと無意識だっただろう。 慈しむように目を細めて蝶を見るフレイに、はクスリと笑って語りかける。

『随分懐いてるみたいだね』
『・・・?そうね・・・』

の言葉にフレイは一度だけ空を見た。いや、見る場所なんて何処でも良かった。 ただ眉を顰めるほどではない疑問に、目を泳がせただけだ。 だって、誰かに懐いているなんて、多分ロボットにそんな感情は無い。 もしかしたら少しの間、一緒に居れた時間から、何かしらの回路が記憶として留めているのかもしれないけれど。

自分達は親しい間柄じゃなかったし、ただコーディネーターと捕虜のようなものだった。 蝶を預かったのはの部屋に身を寄せられたからで、彼女に必要とされてではなかった。



『・・・じゃあ、私これで』

肩に留まった蝶をに返すと、フレイは視線を足元に落とす。
一つ、疑問が浮かんだ。此処には自分が会いたくて来たけれど、果たしてそれで良かったのか。

にお礼が言いたくて来た。自分が会いたくて来た。
だけど、今ぽかりと心に空いた穴のようなものは何なのか。
会って、とどうしたかったのか。自分はの何になりたかったと言うのだ。

多分、自分は―



『ねぇ、』

視線を落としたフレイの顔を上げるよう、今度はがフレイの手を握った。 ふんわりと自分を包む手は、酷く優しい。 誘われるようにの顔を見ると、は穏やかな笑みを浮かべて居る。

『有難う。「前の私」に会いに来てくれて』
『・・・私も、会ってくれて有難う』
『こんなに素敵な友達が居たなんて驚いたけど嬉しかった。「前の私」って幸せ者だったのね。また遊びに来て!』
『・・・友達・・・?』

フレイは握られた手の感覚も忘れるほど頭の中が真っ白になった。
何度も瞬くが肝心のは「あ、でも自分の家じゃないのにそんな事言ったらイザークにまた怒られる」 とか何とか良いながらブツブツと呟いては青褪めている。 そんな見たことの無い顔を見て、思わず噴出すように笑った。



―多分、自分はの友達になりたかったんだ。
コーディネーターとナチュラルとか、そんな小さなことを厭わず大事にしてくれた「」と。



『あれ?可笑しなこと言った?もしかして、友達じゃなかった?』

突然笑い出したフレイに、は変な事を言ってしまったんじゃないかと問いかける。
フレイは首を横に振ると、満面の笑顔で答えた。

『・・・ううん、私たちは友達よ!』

フレイの瞳には薄っすらと、涙。そう言ってくれたの表情が、とてもとても嬉しかった。



『これからどうするつもりだ?』

のもとを後にしたフレイが送迎のエレカに乗り込む際、見送りに来たイザークとディアッカが真剣な顔つきで問う。

『・・・戦争で身内は居なくなったので、暫くは施設に入ります。 そこには戦争孤児も沢山居るようなので、そちらのお手伝いも兼ねてようと思って』

シートに腰掛けたフレイは二人を見上げると、オープンカーのせいで直に注ぐ夕陽が眩しくて目を細めた。

『まぁ、地球に帰れば友達とか居るだろうしな』
『・・・友達には、もう会えない。私、沢山酷いことをしてきたから・・・』

夕陽のせいじゃなく、フレイは視線を落とした。 友達は、居た。思い出せば沢山居たと思う。でもそれって本当の友達だっただろうか。 自分は、自分が本当の友達だと思っていた人たちを、傷つけ裏切った。 今更ひょっこり帰って顔を出して、彼らが許してくれるとは到底思えない。

『地球に帰りたくないのか?』
『今の私は何処に居ても同じよ』

ヤキンでキラが生きている事を知れた。だったら、それで良い。 本当は謝りたかった、正面から好きだと伝えたかった、けれど、またあの薄紫の優しい瞳を濁してしまいそうで怖い。 自分があの場所に戻らなければ、きっとキラは幸せになれる。 大事にしてくれた彼に何も返さないのも罪だと思うけれど、今は自分と言う存在が彼の前に現れない事が一番の恩返しだ。



『だったらの傍に居ろ』
『・・・え?』
『ボランティアが必要なのはプラントでも同じだ。手伝いがしたいと思うのなら此処でだって出来るはずだ』

フレイの心情を察知してか、そうではないのか、イザークは淡々と話す。 最初はただ冷たく見えたアイス・ブルーの瞳だが、今は腕を組み見下げる形であっても怖いと思わない。
それはきっとの事を思っている瞳だからだ。ただ一人を慈しむ、優しい瞳。

『あいつがお前を守ったのは、お前を大事に思ってたからだろ。だったら、お前もあいつを大事にしてやれ』
『俺からも頼むよ。ちゃんの傍に居て欲しい、・・・居てやってくれよ』

少し後ろに居たディアッカも、屈むようにしてフレイを見ると照れたようにはにかむ。

『・・・はい!』

元気の良い返事が聞こえ、ふっと笑ったイザークだったが、一瞬にして固まった。
ディアッカも同じように固まったが、次の瞬間おたおたとしながらも言葉を探す。

安心したのか、嬉しかったのか、フレイの瞳からずっと堪えていた涙が零れた。



今度は逃げない。ちゃんと大事だと、大切だと面と向かって言おう。
我侭な自分だったけれど、優しくしてくれた人々が居てくれたお陰で、自分は知る事が出来たのだから。
人に優しくすること、大事なものを、大事にすることを。

この人たちが彼女を大事にしているように、私も・・・。








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あれからフレイは何処行っちゃったの?って言う疑問を書いてみました* フレイは可愛かったけど本編では可哀想な扱いの子でした、本当(涙)なのでここでは幸せを見出せると良いと思います*

ちなみにafter story01で「極刑でも良い」「最期までヒロインと一緒に居るんだい」と、覚悟を決めていたイザークさんでしたが、ただの取り越し苦労でした* 死んじゃわなくて良かったけど、過ぎてしまえばちょっとお間抜けな覚悟でした*後に、ニコルとラスティにはちゃんと笑われました* そこはスルーして欲しかったね!


では、お読み頂き有難うございました*これからも「キミトメグリアエタキセキ」をどうぞ宜しくお願いします!